素直に学ぶ姿勢を大切にしたマインドセットで、お客様と長い関係性を築く
【対談者プロフィール】
代表取締役社長|President & CEO/Regional Operating Principal
山本 豪|Mark Yamamoto
国際不動産スペシャリスト|International Real Estate Specialist
貝瀬 美穂|Miho Kaise
ケラー・ウィリアムズのグローバルイベント『KW Mega Camp』で、毎年恒例となっている「Cultural Summit」。そこでは、ケラー・ウィリアムズの文化構築にもっとも貢献した「文化大使(Cultural Ambassador)」を各国から2名ずつ選出し、その実績に対する表彰を行っています。2021年8月に開催された「Cultural Summit」では、日本から貝瀬美穂氏(KW 東京・エージェント)、本間あり紗氏(KWJ本部・オペレーション担当)が選出。貝瀬氏に関しては、100名以上いる文化大使の中でもKW本国から高い評価を受けた3名の中にランクインし、バーチャルで行われた表彰式でスピーチしたほか、モー・アンダーソン副会長から直接インタビューを受けました。本記事では、貝瀬氏とケラー・ウィリアムズ ジャパン代表取締役社長・山本豪による対談の様子をレポートします。
「街づくり」への興味から始まった不動産エージェントとしてのキャリア
代表取締役社長・山本 豪(以下、山本):
今回は文化大使(Cultural Ambassador)への選出、本当におめでとうございます。
貝瀬 美穂氏(以下、貝瀬):
ありがとうございます。
山本:
私の印象は、貝瀬さんは本当に“経営者であり、「CEO」であるということ。ここで言う「CEO」は、Cは「creates energy」でエネルギーをつくり出せること、Eは「engage talent」ということで、周囲の優秀な人々と関わることができるということを意味します。最後のOは「owns results」、つまりいいことも悪いこともすべて自分の責任として対応できるという意味。この3つの要素すべてが揃う貝瀬さんが、2021年の文化大使に選ばれたということは、私としては当然の結果だと思っています。そんな貝瀬さんは、ケラー・ウィリアムズ(以下、KW)に入る前は、不動産ビジネスには関わっていたんですか?
貝瀬:
はい、関わっていました。私の父は不動産業を営んでいたのですが、私自身はその業界に興味がなかったので、金融系の通信社や外資系企業でキャリアを積んできました。その後、結婚・出産を経験する中で家業を手伝うようになり、そこから足掛け約15年間、不動産ビジネスに取り組んできました。宅建資格の取得のために勉強をする、物件の管理から賃貸・売買の仲介をする、という一通りの経験をする中で、後から興味がわいてきたというのが正直なところですね。
山本:
この業界のビジネスの面白味を感じ始めたということだと思うのですが、どんな部分に面白味がありましたか?
貝瀬:
すごく広い視点で言うと「街づくり」というものに面白味を感じたんです。実は、私は街が変わっていく様子を見るのが好きなんです。1つの建物や物件に興味があるというよりも、都市や街という全体がどういう風にできているか、というところに興味があります。個人的に今注目しているのは麻布台の開発が進んでいる東京都港区で、その進捗はずっと見ています。本当にすごいことだと思いますし、通りを広くするためにどんな交渉があったのか、開発するためにどれだけの苦労があったのか、などのエピソードを聞くこともとても好きですね。
山本:
私も先日、近くまで行って「何階まで進んでいるか」を確認してきましたよ(笑)。不動産ビジネスには関わりがあって、仲介業務も行っていた貝瀬さんは、どんなきっかけでKWに出会ったんですか?
貝瀬:
2019年の『国際不動産カンファレンス(IREC)2019』で、今回私と一緒に文化大使に選ばれたKWジャパン本部の本間あり紗さんとお会いして、話をしたのがきっかけです。当時、ほかの大手不動産企業への参加も考えていたんですが、KWのブランドイメージが非常に良かったですし、ブランドとしてテクノロジーに対する取り組みが進んでいるということを強く感じました。そして何よりも、エージェントに対するトレーニングが組織の中に深く浸透しているところに大きな魅力を感じて、KWを選ぶことに決めました。
自分にしかできないことを追求するのが自分のブランド力
山本:
そこから個人事業主である不動産エージェントとしてのキャリアが始まったということですね。その活動において、貝瀬さんが大事にしていることはどんなことですか?
貝瀬:
1つは、最初に言っていただいたこととつながるのですが、自分が事業の経営者であるという視点を常に持って動くことだと、私は考えています。私のお客様には事業家の方が多いので、その方々と同じ視点でお話をさせていただくためにもその意識は大切だと思っています。もう1つは、やはりリードジェネレーション(見込み顧客)をいかに獲得するかということを常に考えること。単に数だけを追求するのではなく、個性を生かしながら集客に注力し、自分を気に入ってくれるお客様を獲得していくことは、常に考えて動いていますね。
山本:
経営者としての考え方や価値観とは、貝瀬さんはどのようなものだと考えていますか?
貝瀬:
私自身は個人事業主なので従業員を抱えているわけではありませんが、リスクを負うことを恐れない、ということだと思います。常に安全なことだけをやっていても利益は上げられないでしょうし、必要なタイミングで必要なコストをかけ、チャレンジしていくことが大事なのではないでしょうか。私に関して言えば、子育てもひと段落し、夫にも収入があるので生活に困ることはないので、大きなリスクを伴うようなチャレンジも積極的にできますし、長い時間をかけながら大きな利益が出るような案件を狙う、ということも可能なんだと思います。
山本:
反対に言えば、社員や家族の生活を支えるために無理をする必要もなく、また大きなリスクを取りながら大きな利益を得る必要もない状況とも言えますよね?貝瀬さんのチャレンジを支えるモチベーションは何なのでしょうか。
貝瀬:
裏付けになっているのは、人ができないことをやりたい、人とは違う面白いことをやりたい、という好奇心が原動力だと思います。お客様と接する中で、「貝瀬だからできること」というものを狙っていきたいですし、仲介の数字だけを追うのではなく、難しい案件をまとめたり、これまでお付き合いのなかったようなお客様のニーズに応えたり、自分にしかできないことを残していきたいという思いが強いんです。その積み重ねが私の“ブランド”になっていくのかもしれませんね。
山本:
本当に不動産エージェントとして成功するためには、もちろん宅建の教材にあるケーススタディで学ぶような“知識”は必要ですし、まずはビジネススキルなどの勉強も不可欠ですよね。しかし、それは普通の勉強では学べないようなものも多いですよね。
貝瀬:
人から教えられるものや、本を読んで知ることとは違う要素がすごく多いと思います。不動産仲介では取り扱う物件は毎回違いますし、とにかくケースをどんどん経験することが大事だと思います。エージェントとして活動する上では、勉強では学べないような課題を、自分なりに調べて解決できるようなスキルが必要なんだと思います。その際に大切になるのが“マインド”で、委縮することなくいい意味ではっきりものを言う、そしてわからないときに「わからない」と聞くことができる、いわば精神的な行動力だと私は思っているんです。コミュニケーションを取りながら自分で一つひとつ解決していけるような力があれば、この仕事には誰でもチャレンジできるはずです。
山本:
私も経験上、その考えはすごくわかります。若い頃はわからないことばかりでしたが、唯一、最初からできたのは、わからないことは素直に先方に伝え、かつ言い訳することなく問題解決策を自分で探すことでした。そのマインドセットをもとに、常に自分で責任を持って懸命に正攻法を見つけていくことが、成功に向けて大切だということだと思います。
期限に縛られない人間関係こそがエージェントの強み
山本:
個人事業主として不動産仲介の案件対応をするエージェントと、大手不動産仲介企業の営業パーソンとはどんな違いがあると思いますか?そして貝瀬さんは、どんな価値をお客様に提供できていると感じていますか?
貝瀬:
感じているのは、お客様を時間的に“縛らない”部分で大きな違いがあるということで、長期的な視点でお客様のご要望に応えられるのがエージェントとしてご提供できる強みだと思っています。営業予算やノルマを意識しなければならない企業の営業パーソンの場合、営業ノルマの月締めを過ぎるとお客様との関係性が途切れてしまうことも少なくないと思います。しかし、私たちのようなエージェントの場合は、今の時点でお客様が気に入るような物件をご紹介できなくても、長いお付き合いの中で「子どもの進学に合わせて新居を購入したい」「老後を過ごすために住み替えたい」といったタイミングでのご提案につなげられます。言い換えれば、仲介企業の営業パーソンが行うようなお客様の背中を押す、という行為に関しては、私たちは重きを置いていないと言えるんです。日本では、まだまだ「会社重視」の状況だと思いますが、最近はお客様が「誰から買うか」という米国の不動産エージェントのスタイルに近づいてきている気がしています。
山本:
お客様が住まいを購入する際には、安心して買いたいという思いからブランドを重視していた。その状況が、最近は人間関係に重きを置くようになったということですか?
貝瀬:
人間関係はもちろん大切ですが、今の購入層を支える世代は会社ブランドに縛られずに自分の目で、価値観のあう営業スタイルを選びたいのだと思います。これだけ全てが多様化していますので、お客様の数だけ、エージェントの個性が生きる時代になったと感じます。会社ブランドを意識される方もちろん継続していらっしゃいますし、買わされる感(笑)を避けるお客様が我々のようなエージェントを自発的に選んでくださるのだと感じます。
山本:
住み替えというお話がありましたが、現在アメリカ人は平均で16.8回住み替えるというデータがある一方で、日本人の住み替え回数は平均3回ぐらいとなっています。今後の日本においては、住み替えの回数が上がる可能性はあると思いますか?
貝瀬:
あると思っています。子育ての状況や趣味嗜好の変化などでマンションから戸建てに住み替えたい、求める立地条件にマッチする物件に住み替えたいというニーズは、今後増えていくと思います。古くてもメンテナンスが行き届いている物件、立地の良い物件に注目しながら、時間的に縛られることのない適切なご提案によってお客様との関係を密にし、そこから別のお付き合いにもつなげていく。そうした取り組みが、今後の私たちエージェントにとって大事になっていくのではないでしょうか。
個人の要望を形にできる業務スタイルとバックアップ体制
山本:
これからの日本において、フルコミッションの個人事業主として見込み客を獲得しながら、人脈をベースに不動産仲介を行うエージェントは、どのような意識で取り組むべきだと思っていますか?
貝瀬:
これは私がそういう風にやりたいと思っていることですが、やはり守備範囲を広く持つという意識が大事だと思っています。1つの業務領域しかできない場合、1人でやっているエージェントは間口が狭くなるという厳しさがありますし、私は管理も賃貸・売買の仲介も、収益物件の一棟ものやオフィスまでもカバーするように心がけています。また、それに加えてインバウンドの外国人に国内の物件を紹介し、アウトバウンドの日本人の投資家に海外物件も売れるような、国内と国外両方のお客様にも対応しています。もちろん、エージェントそれぞれのスタイルもあると思いますが、KWのいいところは、マーケットセンターのチームリーダーが数字のみを管理して「絶対にこの数字を達成する」ということではなく、個人のエージェントのスタイルに合わせて歩み寄ってくれるんです。そこが大きな特徴だと思います。
山本:
エージェントによっては、ご主人や結婚相手がフルタイムで仕事を持っていて、子どもがまだ小さいから1年かけて徐々に勉強しながら宅建も取り、半年先ぐらいに賃貸仲介で1件成約を目指す、という考え方の方もいますよね。これはKWのエージェント制モデルの1つの特徴だと思います。
貝瀬:
KWであれば、今の仕事で数字に追われる営業スタイルに限界を感じている大手不動産業界の営業パーソン、ワークライフバランスを大事にしたい女性にも、成功のチャンスは大いにあると思います。やる気があり、でも一方で自分のペースで仕事を進めたいという方には最適な環境があると思いますね。
山本:
そこで必要となるのは、宅建など知識面での充実と、業務に必要となるすべての要素を素直に学ぶためのマインドセットを、同じ比率でバランスよく維持することかもしれませんね。最後になりましたが、今後について貝瀬さんの思いを聞かせてください。
貝瀬:
今回、文化大使に選んでいただいたことで、KW内部の方からお声を掛けていただく機会が増え、ネットワークがどんどん広がっていることを実感しています。これは本当にうれしいことで、大変ありがたく思っています。今回文化大使に選んでいただけたことは、自分がどうこうというよりも、パンデミックも含め外的要因のタイミングが引き起こしてくれたひとつ事象だと受け止めています。今後はこれをKWブランドの浸透・発展に最大限有効活用をしていただきたいと、私から皆さんに期待しています。そのためのアイディアなど必要な場があれば、喜んでお手伝いさせていただきたいです。来年はそういったことが、自分のエージェント活動ともう一つ別の柱として必要な使命だと受け止めています。